リーガル・レバレッジ

リーガル・レバレッジ

コンサルに転身した元企業法務パーソンが、自分の市場価値を上げようと模索する日々を綴ります。

法務視点でクレーム対応を考える

法務系Advent Calendar 2016の記事です。

 

○はじめに

 初回記事でも触れましたが、私のお題は「法務視点でのクレーム対応について」です。

 法務担当と言いながら、ベンチャーという規模上、それ法務の仕事なのかな?みたいな仕事も振ってきます。

 そういうのを何個も担当しているうちに「法務関係ないと思ってたけどこれ法務のバックグラウンド活かせるよね」と感じた仕事の一つがクレーム対応なのです。経験の棚卸しも兼ねてこのテーマにしました。

 急なクレームやクレームに関するヘルプ依頼を受けたとき、以下のプロセスで考えていけば最悪大ハズレはしない(はず。多分。おそらく。maybe.)と思われます。流行りのフレームワークチックに使っていただければと思います。

 独自理論なところがばっかりですが、そこはご容赦を。

 

○ 想定事例

 全部フィクションです。念のため。

 自社は化粧品の販売を主な事業としており、以下のキャンペーンを実施していましたとします。

 ・ 自社のWEBサイトで一万円以上の化粧品を購入した人を対象に 

 ・ オリジナルのハンドクリーム(非売品)を

 ・ 購入月の翌月末日間でに郵送でプレゼント

 上記を元に、自社にAさんとBさんからお問い合わせがありました。

 

1) Aさんからのご連絡

 ・ 2016年1月に1万5千円分の化粧品を購入

 ・ ところが、現在(2016年3月31日)になってもプレゼントが届かない

 ・ 未配達の原因は自社のキャンペーン担当者の不手際によるもの

 ・ リクエストは①どうしてこのような事態になったのかの説明②何かしらお詫びはしてもらいたい、の2点

2) Bさんからのご連絡

 ・ 今回のキャンペーン中に購入した化粧品はない

 ・ しかし、一部の人間にだけプレゼントするのは不公平であり差別であるので、その様なキャンペーンは許されない

 ・ リクエストは①不公平な扱いをされて不愉快なのでキャンペーンの意図を自分が納得いくまで詳細に説明する②自分にハンドクリームを送付する、の2点

 

1.まずはじめに

 「落ち着く」が、何よりも優先してすべきことです。急に電話対応を迫られて、しかも相手が激しい口調で怒っているという場合、パニックになってしまうこと必定です。そんな状況で受け答えしても、間違いなく良い結果にはなりません。相手の勢いに押されて「~をさせていただきます」なんて安請合いしまおうものなら最悪です。

 頭が回転しない・マズいと思ったら、まずは一旦保留にしましょう。身近に相談できる人を探し、いないようなら後ほど回答する旨をお伝えし、一旦電話を切りましょう。一分一秒を争うような案件でない限り、電話だけで受け答えするのは得策ではありません。

 

2.最終ラインを決めましょう

 交渉と同じです。相手のリクエストにどこまで応じれるか、という基準点を決めましょう。

 ここは良くも悪くも事業部の方針次第なところがあります。誠実に対応が方針なら手厚いお詫びが最終ラインになるでしょうし、適当でOKという方針ならアリバイ的な対応程度以上はしないともなるでしょう。

 とはいえ、事業部の判断の幅にも限度がありますので、それを超えていると考えた場合は意見もすべきだと考えてます。必要以上に強気な対応をしてしまえばいわゆる炎上の恐れもあります。妥協しすぎ(引きすぎ)や強く来られたから譲った、では他のお客様に説明がつきませんし、話が広まってしまえば収集がつかなくなる可能性もあります。

 「クレーム対応本の『毅然とした対応が求められる』率は異常」なんて皮肉を聞いたりしますが、毅然とした対応が求められるのは事実です。毅然とした対応のために、妥当な最終ラインの設定が必要なのです。

 想定事例に当てはめると、①では自社が悪い以上何かしらのお詫びはすべきでしょう。事業部と相談の結果、3000円のクーポン送付までなら対応可と決まったとします。②は、相手の主張に何も理由がない(区別・差別についての論証は避けます笑)ので、全対応不可と判断される方が大多数ではないでしょうか。以下もそのように進めます。

 

3.説明すべきかどうか

 説明責任。ぼんやりしている割にしょっちゅう耳にする単語でもあります。

 

 無論、自社が悪ければ誠実に説明するのはとても大切です。言い訳と取られないように注意しましょう。が、本当に今説明が必要なのかはきちんと考えないといけません。また、説明するにしても、今説明しようとしていることは本当に外部の方に話してもよいのかという観点も持たないといけません。ということで、ここでは「必要性・許容性(相当性)」さんに登場してもらいましょう。

 保護責任者遺棄を例にするなら、先行行為や親族その他発生原因がなければ救護義務は発生しませんよね。何もないところには義務は発生しないはずなのに、「説明しろ」と言われたから説明しないといけないと考える方は多いようです。「説明する必要があるのか」をきちんと考えた上で、次の行動に出ましょう。必要があるかどうかは、自社の対応に不手際があったかどうか、お客様の言い分に理由があるかどうか、あたりが判断基準になると考えてます

 また、説明する必要があるとしても、何から何まで話してよいというわけではありません。機密に関連してしまうなど、自社にとって著しく不都合であったりする「許容範囲外」なものはご説明はできません。許容範囲外かどうかは各社で判断が変わるところかと思います。説明しないとリクエストが続くかと思いますが、そこは諦めていただく他ないでしょう。

 

 想定事例に当てはめると、①では自社の不手際である以上、可能な範囲でご説明するのがよいと考えます。単なる不手際なら、どのような経緯で発生し、今後の防止策まで添えると誠実ですが、これは状況次第です。対して②では、そもそも説明する必要がない上、説明対象が自社の営業戦略の一環である「キャンペーンの意図」を求められているため、説明することの許容範囲外であると考えられますので、お答えしかねるでしょう。

 

4.決着をつけるべきか否か

 序盤に「交渉と同じ」と書きましたが、性質上取引とはと同じように見えて、完全に同じではありません。

 取引に関する交渉の場合、相手と自社の求めるものが近いことが多いため、お互い妥協の上決着するというのが多いでしょう。しかし、クレームに関する交渉の場合、自社の求めるものと相手が求めるものがかけ離れている場合が少なくありません。②のような事例だと顕著ですが、この場合相手が引き下がらない限りは永久に続きます。

 そこで考えるのが「本当に決着をつける必要があるのか」という点です。必要がないなら、決着はつけなくてよいのです。説明と同様、何かあると「完全に解決しないと...」と思い悩む方が多いように思いますが、これも決着させる必要性次第で対応は変わります。

 ②のように、全リクエスト対応不可となると連絡は続くことが多いのではないでしょうか。リクエストに応えて決着、だけが解決策ではありません。引き下がっていただく他の手段も検討してみましょう。

 

5.今回のケースをまとめると

 ①では丁寧にお詫びをした上、可能ならば不手際が発生した理由と今後の対応策をご説明します。その上で、お詫びとして3000円クーポンご送付のご提案というのが妥当ではないかと考えます。

 対して②では、プレゼントはお渡しできないし、キャンペーンの意図は説明できない旨をお伝えします。何度連絡を頂いてもこの結論は変わらないでしょう。

 

6.おわりに

 丸ごとは無理にしても、法的な考え方を通常のお仕事に流用できる場面は多々存在します。どこかで聞いた「ロースクールで養った法的思考力はビジネスでも生きる」という意味が分かる気がします(まあ私ロースクール行ってないですが)。

 今回紹介した各ステップ共通して言えることが①適切な基準を考えて(義務を特定することを含み)②事例を基準に当てはめ③妥当な結論を導くというプロセスで考えるという、これぞまさに法務のバックグラウンドが生きる場面です。

 よく言われますが、クレーム対応はよりお客様の心を掴むチャンスでもあります。何でもかんでも「毅然とした対応」をしてればいいというものでもなく、そこが大変難しいところでもあります。なので的確な最終ラインの設定には気を遣いますが...。正解のない仕事の典型ですので、腕の見せ所です。

 また、困っている現場の人たちを、客観的にもっとも適切な方向に導いて助けるという、これって法務の醍醐味じゃありませんか?

 加えて現場の方とダイレクトにやり取りする上、困ってらっしゃることが多いので、上手く解決できれば信頼を得られる絶好のチャンスでもあります。意中の異性が見てる前の仕事だと「良い所見せてやる!」と気合が入ると思います。それぐらいの感覚で望みましょう!笑

 

 センシティブ目なトピックですので、かなーり省略して書いてます。もうちょっと深いところや事例の話など、聞きたい方がいらっしゃれば続きはWE...じゃなかった!1/9の交流会でお話できればと思います。

 

 それでは、次はmsut1076さん、よろしくお願いします!!