リーガル・レバレッジ

リーガル・レバレッジ

コンサルに転身した元企業法務パーソンが、自分の市場価値を上げようと模索する日々を綴ります。

ストーリーでわかる営業損害算定の実務

初のブックレビューです。

(いざ書いてみると難しいもので...)

ツイッター上で話題にもなっていた書籍ですので、タイトルだけでもご存知の方は多いのではないでしょうか?

営業損害の賠償請求を見据えて、というわけではなく、単純に興味があったので手にとって見ました。一言で言うとオススメです。

 

○ 総評

・ 読み物?書式集/チェックリスト?

  →読み物です

・ 難易度は?

  →易しいが、詳細な解説もあり幅広く対応(後述します)

 

○ 概要

 ある日、主人公の遠出太郎(弁護士2年目、イソ弁)の元に顧問先の社長が相談に来ます。

 顧問先は食料品の卸業を営む会社で、腐敗していた自社商品を取引先スーパーに卸してしまいます。取引先スーパーは腐敗した食品を販売したことで営業停止という損害を被り、主人公の顧問先に多額損害賠償を求める内容証明が届いたとのことでした。

 請求されている金額はどう考えても高すぎると思う太郎でしたが、どういう理屈で請求されている金額を下げればいいのかが浮かんできません。

 そんな頼りない太郎が、大学時代の同期である西野(会計士7年目)とボス弁の飯島先生のアドバイスを頼りに裁判を戦っていく...というお話です。

 

○ 形式的な面への感想

 物語形式で話が進むので、とにかく読みやすいです。ストーリー→解説→ストーリー→解説...補講という順で進み、ストーリーの補足や説明しきれなかった点が解説に記載されています。解説の方が多少細かい話になるので、解説のわからない所は読み飛ばすなり、そもそも1周目は解説を読まないというともありだと思います。この読み方なら社会人でも平日の1日か2日で読めるので、とりあえず1周したい私にとってはとてもありがたい構成です。

 既にある程度知識のある方には向かない印象を受けられたかもですが、最後に「補講」という章が設けられており、会計の専門的な知識に関する記載はここにまとめられています。法務マターからはちょっと外れますが、決算書ができる過程や監査ってどうやるのとか、会計士目線の面白い内容が詰まっています。直接担当することはないにしても関係することは多い業務ですので、こちらも興味深い内容でした。(ここはやや手抜き感がありましたが...苦笑)

 といった感じで、難しい内容は記載はするけど読まなくても本編読むのに何の問題もないよ、というメリハリの利いたスタイルがとてもGoodでした。

 

○ 内容的な面への感想

 自分数学苦手だしな...と思って本書を敬遠してる皆様、大丈夫です!複雑な計算式全く出てこないので、安心して手に取ってくださいませ。高校数学の評価が2~3を漂っていた私が大丈夫と思うので間違いはないと思います(堂々とした感じで)。

 B/SとかP/L読めないと辛いだろうな...と思って本書を敬遠してる皆様、大丈夫です!会計に無頓着な主人公が成長していく物語ですので、本書をきっかけに会計に興味を持つというので全然大丈夫です。

 といった感じで、何かの知識がないと読めないというわけでは全然ありません。

 営業損害の算定だけでなく、訴訟前から訴訟終了後まで一貫したストーリーで構成されているため、訴訟手続きを学ぶのにも役立ちます。裁判官の心証や後々の訴訟追行まで考慮した主張の立て方、相手に対してはどのような証拠開示を求めるべきでどう特定するか、のくだりはとてもいい勉強になりました。若手のときにやってしまいがちなミスやその対策も載っていますので、働き始めの弁護士・法務担当者の方にも役立つ記載があります。

 他には「手続法がイメージできん!苦手や!」と苦しんでいる予備・新司受験生の方にも、全体をイメージするいい参考になると思います。おまけ的ですが、新司H24年民法 設問3は食料品に関するトラブルで損害賠償請求ができるかどうか、という話でしたね。過去問は「できるかどうか」ですので損害額の算定なんてまったく必要ありませんが、「これは『損害』といえるのだろうか」という目線と、損害かどうかを見極める感覚を養うのはとても重要だと考えてます。重要条文である民415に基づく損害賠償請求の要件に「損害の発生」があるので、当たり前っちゃあ当たり前ですが...

 

○ ぼんやりと思ったこと

 「逸失利益の算定って、どうやって性格に計算しているのだろう」と思っていた時期がありました。本書を読み、他にもマーケティングの本やらを読んで分かったのは、利益等の数字を出すときの最終目標は「ある程度確かであろう数字を算出すること」なのだろうなと思うようになってきました。えいやあで算出するわけにもいかないし、かといってぴったりと真実に合わせるのは不可能...ならば、できうるかぎり本当の数字を算定する努力をし、それで決めてしまうということですね。

 あるビジネスから生じるであろう利益が1円単位で正確に算定できるなら、弁護士なんてやっている場合ではないと思います。そんな人はマーケターになった方が数倍稼げると思いますので。

 

 以上、ストーリーでわかる営業損害算定の実務のブックレビューでした。購入を悩んでいる方や考えている方は、気楽な感じで買ってみることをおススメします。

 

○ 余談

 完全に勝手な妄想ですが、会計面に疎い太郎を支えてくれる大学同期の西野さんは、こんな感じのショートヘアできりっとした美人だと決めつけています(女優の波瑠さんです)。

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 そして自分を主人公に重ね合わせれば、本を読む手も進んで仕方がない...かもしれません笑