リーガル・レバレッジ

リーガル・レバレッジ

コンサルに転身した元企業法務パーソンが、自分の市場価値を上げようと模索する日々を綴ります。

「法的リスク」を具体的に検討するためにはどうすればよいのか?

アドベントカレンダー、お疲れ様でした。表と裏があると正直追いきれないところも出てきてしまうのですがなんて嬉しい悲鳴なんでしょう。盛り上がるイベントって良いですね。

 

せっかくステキなエントリーが相次ぎましたの「読んでためになった」だけではもったいないなと。

ですので、エントリーを受けて私が感じたこと、考えが整理されたことを書いていきます。

 

スラムダンクアフターストーリ的に。良いように言った。

 

まずは宮下先生のこちらから。

 

 

 

参照する部分はこちら

 

9. リスク分析はリターンとのバランスで行うべし

−フェーズ④⑤におけるstrategic behavior−

 

法的リスクを“見える化”するためのフレームワークとしては、法的リスクを「法令違反そのものの影響の大きさ」「法令違反の発生確率」「ダメージコントロールの成功度」にブレークダウンするアプローチがオススメです。なお、このフレームワークについては、紙面の都合(大人の事情)で、拙著「事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック」の「法的リスク」(2頁〜9頁)をご笑覧頂けますと幸いです。

 

 

法的リスクを分解して考えようという話です。このフレームには法務時代ほんとによくお世話になりました。

気になっている方も多いみたいですので、フレームを使う必要性や使ってみて感じたメリットを書きます。

「リスク検討の流れが分からない」

「検討したはいいけどビジネスサイドへの伝え方が分からない」

なんて人のお役に立ちそうな内容です。

 

あなたの仕事は意思決定の材料を提供すること

「法的リスク」とは何を指すのでしょうか。素直に訳せば

"何かしら法律が絡みそうな不確実性"

ですが、もはや抽象的を通り越して意味がわからないレベルです。

 

「俺は難しい仕事をしてるんだぜぇ」的な雰囲気を出したいだけならまだしも、ビジネスサイドに(というか誰に対しても)意味が分からないアドバイスをするのはよくないですよね。

 

法務パーソンであるあなたの仕事は、法的な観点から案件のリスクを分析し提供することで意思決定者の決定をサポートすることです。

 

抽象的なアドバイスでは意思決定できません。具体的な話をする必要があり、アドバイスを具体的にするためには案件のネガティブなリスクを「分解」して検討する必要があります。

 

粒度は細かく精度は高く

『「リスク」は抽象的な概念だからこそ具体的な検討をしましょう』という話です。

 

古来より「この案件にはリスクがあります」との言葉は禁忌とされています。

口にしてしまった法務パーソンは1人の寂しいクリスマスを過ごす確率が高まる呪いにかかります。

これはなんの根拠ない私の創作ですが、法務パーソンとして口にしてはいけないフレーズTOP3に入るのは間違いありません。

 

リスクとは直訳すれば不確実性であり、世の中に不確実でないものなんてありません。そこまでリスクを気にして生きるなら「食中毒リスクを考慮して水を飲まず、風邪のリスクを考慮して息をしない」ぐらい徹底したスタンスが求められます。

 

「リスクがあります」では何も分かりませんが

 

インパク

「類似の判例から損害賠償の額はXX円と想定され」

発生確率

「訴訟となる可能性は大で」

コントロール可能性

「経営状態を考えるとリカバリーできない事態となります」

 

と聞けばある程度状況は理解できます。

 

「分けて考える」はコンサルの基本中の基本で、かつとても重要で良く使う考え方です。コンサルに入って一番役に立った思考をどれか一つ選べって言われれば「分解」と答えます。

「分けて考える」クセをつけましょう。分解結果はツリーにすると分かりやすく良いですのですが、ビジュアライズの話なのでここでは置いておきます。

(Twitterに載せます)

 

リスク説明に説得力を持たせよう

個別にバラバラと

「トラブルが起きるかもしれません」

「とはいえ、リカバリーできる確率もそれなりにあります」

「あ、言い忘れてましたが紛争になって敗訴した際の損害賠償の額ですが...」

なんて話されても聞いてる側は理解できません。

 

まずバシッとリスク算定の全体感を示し、その後個別の検討に入りましょう。

「この三要素で大まかに抜け漏れなく検討できます」と言ってもらえれば、聞いている人も理解が容易です。

 

リーガルの話をするときに納得感を持たせるためのテクニックではなく、説明スキル全般の話でもあります。まずは全体感、そして個別の話、と。

 

加えて。個別の検討結果を聞けばビジネスサイドもなぜNGと言われてるかが分かります。

 

たとえば

 

結論

「ユーザーの行動履歴をベースに算出した内定辞退率を販売することは、自社のプラポリに定める利用目的ではカバーできておらず個人情報保護法違反です。」

 

インパク

「求職者ユーザーから不信感を持たれれば大幅な利用者側は避けられず、当社のビジネスに与える影響は詳しく算定するまでもなく「甚大」です。」

 

発生確率

「黙っていれば分からないと言いますが、過去に黙ってデータ売買したのがバレて炎上した案件はいくらでもありますし、トラブルになる確率は「大」です。」

 

コントロール可能性

「また、信用に関わる問題であるためレピュテーションの回復は相当難しく、リカバリーするのも困難です。」

 

まとめ

「以上より、発生確率は大、想定される被害も大、リカバリー可能性は低となり、法務としては「本新規事業は進めるべきでない」との結論になります。これだけのリスクを承知の上でもまだ新規事業として進めるのでしたら、メリットと比較しますので事業計画を見せてください」

 

って話をすると、具体的な感じがしてきません?

 

自分の実例は出せないのでニュースになった他社事例をざっくりと使わせもらいましたが、こんな流れで説明すると納得してもらえる確率は高まります。

 

「今は何の話をしているのか(確率?金額?回復可能性?)」を明確にするのは大事ですよね。

法的リスクの説明以外でも。

 

次はもっと良い仕事を

数値化できないものは検証できません。検証できなければ次に活かせません。検証の対象となるプロセスを残しましょう。

 

ざっくり「リスクがあります」では、今後のお仕事で今の案件を参考にするときになんの役にも立ちません。参考にすることはつまり比較することで、比較するためには数値化する必要があるます。

 

損害賠償の想定、ビジネスが止まることによる売上低下、発生確率の大中小...など。

 

「類似の案件でリスク中って判断してるから、今回の性質考えるとリスク小だよね」

「そもそも前回の賠償額想定は大きく見積もりすぎたよね」

「この類型の案件はリスク大が続いてるから、先に事業部に注意喚起しとくべきだよね」

なんてやりとりが可能になります。

 

そう、一言で言うとPDCA。それだけ。

 

あなたが検討したファクトは何か

そのファクトをどのように解釈したのか

どうやって最終的な結論を出したのか

を追えるようしたい、という当たり前の話をしています。

 

検討ポイントが人によって異なると品質にバラツキが出るだけでなく、上位者もレビューするのがしんどいですよね。そういったネガティブな事態を避けるためにあるのが「フレーム」です。

 

最後に心構えの話

小さく初めて大きく育てるのが何より大事です。最初から正確なリスク予測ができる人なんて絶対にいません。

 

考えて、検証して、蓄積して、考えて、検証して、蓄積して。そんな過程を経てリスクや数値予測の精度は上がっていきます。

いやだから当たり前の話なんですけどね。

 

リーガル界隈は「不正確ならやる意味がない」「最初から完璧にやってこそ」という、ビジネスの常識を完全に逆走する言葉やポリシーが幅をきかせる不思議な業界です。

 

実際にそういう人は多いとも感じます。出会ったことももちろんあります。履き違えたプロフェッショナル気取りは怖い。

ビジネスサイドへの転身とかポータブルスキルとかそれ以前の問題ですね。タコツボの中でしか通用しない常識は捨てて外に目を向けると良いと思います。リーガルを続けるにしても、ジョブチェンするにしても。

 

 

とにもかくにも便利なツールなのは間違いありません。ビジネスサイドへの説明が難しいなー、って悩んでる方はとりあえずで良いので使ってみてください!

「読んでとてもためになる良い内容だと思いました」は、書き手からすると嬉しいお言葉なのですが、思っただけでは何も成長できませんので