法務の経験があればどの職種でも通用...なんてしないよ
【この記事は法務系 Advent Calendar 2019における7日目のエントリーです】
コンサル繋がりのsekoパイセンからバトンを頂きました。転職おめでとうございます!
私のお題は「法務職を経験することによって得た知見はポータビリティなのか」です。もうちょっと言い換えると、法務として働いた経験を活かせば他の職種でもすぐ活躍できるのか、ぐらいの話ですね。
まあ、結論からお話しすると法務で得た知見はポータビリティではないのですが。タイトルからしてわかるかと思いますが。
法務からコンサルに転職して1年半くらいでしょうか。上手くいかないとは覚悟していたけれど、それが想像以上で多々苦労をすることになりました。
が、1年半も経つとようやく手ごたえを感じられるところも出てきますし、その手ごたえは何をどう頑張ったことによるものなのか、などなども分かってきました。その結果を言語化しておこうかなと。
自分と同じように法務をやめて新たなジョブにチャレンジしようとする方の参考になると幸いです。
全体として、こんな構成です
1.法務経験はポータビリティではないと感じ、考えた根拠
・必要とされるスキルや知識が違いすぎる
・法務の知見が活きるのは部分的
・あえて一つ挙げるとすると
2.それでも法務からジョブチェンしたい方へ
・やっておいてよかったこと
・もっとこうしておけばよかったこと
・でもこれでよかったのだ
3.私が脱法務にこだわるのは
・「無資格法務」キャリアへの恐怖感
・法務は法務でしか転職できない
・やりたいことがある
それでは行きましょう。
1.法務経験はポータビリティではないと感じ、考えた根拠
法務の経験があればどの職種に移っても通用するのだろうか、いや、しない。という話をします。経験談に基づき法務→コンサル(総合系)を対象に。
・必要とされるスキルや知識が違いすぎる
スキルがポータビリティかどうかの判断基準は、ジョブチェン前と後で求められるスキル/知識が近いかどうかで考えます。
コンサルといえば問題解決ですが、法務の仕事だってリーガル要素が入る問題解決です。業務のプロセスとしては
①事案を分析して問題点を見つける
②問題解決のために必要なデータをリサーチする
③ロジックや集めたデータを使い、解決に向けた最適解(施策)を考える
④上記を伝えるために表現する
一部例外を除き、上記4ステップを踏むことに異論はないと思います。では、それぞれ法務とコンサルで比較してみます。
①事案を分析して問題点を見つける
法務とコンサルの近さ:✖(遠い)
法務の人は法的な観点で問題を分析し、問題を言い換えてアプローチします。この「法的な観点で」がポイント。「法的な観点」から物事を見ることは磨かれているけれど、ビジネス的に物事を見るのに慣れていないのです。いや、そういう仕事だから当たり前なんですけどね?
簡単な一例として
「取引先が広告料1億円を払わないと言ってきたんです」という相談が来たら、皆さんどう考えますか?
契約が成立しているか、していることの証拠はあるか、あれば最悪訴訟まで見据えて支払わせられそうだ、など。法的な分析がパパっと浮かんでくることかと思います。
では「売上が低い」で悩むクライアントの悩みにはどうアプローチしますか?
上の例でスッと出た人は多くても、こっちの例では「うーん」と悩む方がほとんどかと思います。
法的な問題を抽出することと、ビジネス的な問題を抽出することは全然違うのです。
②問題解決のために必要なデータをリサーチする
法務とコンサルの近さ:✖(遠い)
これはもう簡単。全然違う。リーガルリサーチとビジネスリサーチは明らかに違う。
コンサルは法務ほど判例を探さないように、法務は市場規模を調べない。
転職序盤はリサーチ系の依頼を受けると「探せって...どこを探せばいいの...?」と悩むこと必至です。
③ロジックや集めたデータを使い、解決に向けた最適解(施策)を考える
法務とコンサルの近さ:△(近くも遠くもない)
問題解決に向けての考え方は一緒ですよね。でも、解決のために「具体的に●をしましょう」の部分が決定的に違います。売上向上や新規事業推進に向けて必要な施策は法務で考えることはないので...
④上記を伝えるために表現する
法務とコンサルの近さ:✖(遠い)
法務は文章で、コンサルは図で表現します。これも相当にやっかいな問題でした。
まずスライドをまともに使ったこともなく、なにより物事を「図で表現」することに慣れていません。
(法務あるあるだけど、スライドに文章ベタ張りしたなんちゃってスライドはNGです)
スキル的な話ですが、アウトプットが文章か図かの違いはとても大きかったです。
以上、法務とコンサルのお仕事が似てるかどうかのポイントで、✖が3・△が1となりました。少なくともコンサルに向けては、法務スキルがポータビリティではなさそうですね。
kaneko氏と話してた時にすごい納得してもらったんですが
「交渉は交渉で一緒かもしれないけど、営業の交渉と法務の交渉って別物でしょ」という話がありまして、一言でまとめるとこうなります。一緒に見えるけど別物なのです。
・法務の知見が活きるのは部分的
法務知識の出番の回数で考えてみてもよいです。
例えば組織改革のプロジェクトがあったとして、改革の目的からあるべき組織の姿を考えて、現状と比べて差分を考えて、差分を埋めて新しい組織を作りますと。
新しい組織を作ることになれば人や制度を動かすことになり、制度を変えるには労働法の知識が必要ですね。ようやくここで法知識のニーズが出てきます。
「法務を経験しても何も活きない」では全くなく、知見が活きる場が限定されすぎてて活躍の機会が少ないのです。個別に活きる場面は結構ありますけど、お仕事で求められるのは点ではなく戦でのパフォーマンスですよね。
ジョブチェンすると序盤は必ずしんどい目に合うと思います。でも、これは法務に限らないんでしょうね。同じ職種でも苦労するんだから、法務から出るときだって苦労するさ、程度の話でしょう。今振り返ると。
2.それでも法務からジョブチェンしたい方へ
「法務からジョブチェンするとしんどい目に合うぞ」と散々脅しておいてなんですが。
自分のようにそれでも法務から外に出たいんだという方に向けて、自分の経験で得たものを置いておきます。
・やっておいてよかったこと
助けられたなあと思うのは逃げ道があったことです。最悪やめてしまっても前職に戻ればいいや、という保険が自分を支えてくれました。退路があっても甘えるとは限らないなと。ので、前職のやめ方大事です。
やっておいてよかった、というより結果的に良かったという話になるのですが。30歳で転職して良かったなと思いました。
周囲の目線、待遇などを考えると、新しい仕事にジョブチェンするなら30が大きな目安になるかなと。
これ以上の年齢がいってしまうと、いくら未経験の仕事とはいえ待遇を下げるのは難しいですし、待遇を下げずに行く以上周囲からの期待は大きいし。プレッシャーキツいだろうなと。
あと、まさかのTwitterです。
誰からも必要とされない感は本当につらいです。そんな中、会いませんかオファーや応援をくれる人というのはとてもありがたかったです。Twitterいいね。
・もっとこうしておけばよかったこと
職種・会社・勤務地と、私は転職にあたって労働に関する要素をガラッと変えてしまいました。これはしんどかったです。
一段階別に挟むべきでした。色々あって自分にそんな選択肢はなかったのですが、法務からジョブチェンするのであれば出来れば社内で別のお仕事に変えるとよいです。経営企画かマーケティングがオススメです。
仕事、人間関係、職場環境、通勤環境とか、一つ変わるだけで負担がとても大きいです。ましてやそれが全部シャッフルされると相当にきつい。
(とはいえ、法務からの異動は希望が通らないので厳しかったりしますが...。)
・でもこれでよかったのだ
もう2年目が見えてきました。ようやく話が繋がって見えてきたものが多いですね。
1年耐えて耐えて耐えると見えてくる世界もあるということで。逃げ道は用意するけど、先を見据えて耐えるのもまた大事。
辞めたいなあとは多々思えど、転職しなければよかったと思ったことは一度たりともありません。頑張りどきの30代前半にこの仕事を選んで良かったと思います。
3.私が脱法務にこだわるのは
そこまで苦労して、なぜ法務をやめることにこだわるかの話を少しだけ
・「無資格法務」キャリアへの恐怖感
労働市場における過当競争に巻き込まれないためにはどうすればよいか。希少性を上げる、がただひたすらに大事だと考えています。
法務における差別化の大きなポイントの一つが資格もちであることですが、それは私では実現できなさそうです。
にもかかわらず押し寄せるテック、ロー卒生、資格持ちの波。これから景気が減速して行くであろう日本で企業法務担当の市場が広がるはずもなく、少ないパイを多数で取り合うことになります。戦略的にキャリアを考えておきたいのです。
目指せ年収3000万とかそんな大それたことを言いたいのではなく
42歳
法曹資格 なし
マネージャー経験 なし
事務職以外の経験 なし
専門へのこだわり 強め
年収希望 それなりに高め
例えばこの状態で会社から放り出されると、相当厳しい先が待っているのが明らかです。そうはならないようにしておきたいなと。
・法務は法務でしか転職できない
転職の観点。法務のとても悲しいところで、法務への転職はすごく容易だけど法務以外への転職は悲しいほど案件がない。
自分が法務以外へと転職できたのは本当にラッキーでした。選択肢を多く取るのが自分の人生訓なので、次の選択肢を狭める法務は選択肢から外れがちです。
・やりたいことがある
おまけ的な話ですが。もうかれこれずっとサッカービジネスに携わりたいことを隠してやまない私です。
サッカークラブというのは売上やらの規模でいうと完全に中小企業で、中小企業では管理系のお仕事ができても大きなアピールにならず、求められることは「自分が入ることでどれだけお金を持ってこれるか」的なところがポイントになります。法務は合わなさそうですね。
さいごに
これが私の1年間でした。ブログに書くためというか、自分の課題を克服するためには課題を具体的に特定する必要があり、せかせかと言語化した自分の課題を書き溜めた結果こうなりましたよー。って感じです
去年似たような記事を書いた時に、薄い内容やなとコメントをもらいました。当時からそう思っていたけれど、今見ると自分で辛い。
でも、今回はある程度具体化できました。成長したかな。
「君が培った法務スキルがあればどの職でもやっていける!」
こんな形もなければ根拠もない甘言に惑わされると本当に痛い目を見ます。これを心に響かせて良いのは送別会だけにしときましょう。
「法務はワイルドカードである」との間違った信心から離れて、ただひたすらに次の仕事で結果を出すことに向きあうところが、次のステージへの第一歩です。
以上でした!
お次はピスタチオ太郎(@dancing_alone83)さんです。
あえて名前については触れず、バトンだけお渡しします。よろしくお願いします。