リーガル・レバレッジ

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コンサルに転身した元企業法務パーソンが、自分の市場価値を上げようと模索する日々を綴ります。

【ブックレビュー】中小企業買収の法務を読んだ感想

中小企業買収の法務

中小企業買収の法務

 

法務やめて意識的にリーガル関係の本から距離を置いてましたが、あまりにも面白そうなので買っちゃいました。久しぶりの法務本レビューは柴田先生の「中小企業買収の法務」です。

アマゾンのM&Aカテゴリーでベストセラーをひた走る本書。発売初日に最寄りの書店に行ったら売り切れているなど大変盛況な様子。

 

法務でいうと花形のM&A。興味がありつつもあまり書籍の読みこみが進まない分野でした。書籍を眺めてもイマイチイメージがつかず、しかもどの本もボリュームたっぷりで途中挫折の悪循環...と、そんな私でしたがとてもスラスラ読み通せました。

読みやすさの大元はとにもかくにも内容が面白く興味が尽きないところにあります。専門的なレビューは他の方に譲りますので、私は読んで思ったことと感嘆した点をメインにご紹介します。

 

 

本の概要

大きく分けて3つの編で構成されています。

第1編:本書の目的と前提知識

第2編:事業承継型M&Aの法務

第3編:ベンチャー企業との資本業務提携・M&Aの法務

 

第1編にはNDA締結、DDやクロージングにあたっての留意点といったベースとなる知識の確認が記載されています。が、なんとトータル32Pのコンパクト記載。

他の書籍で書いてある一般的なことは最低限に抑えられていることからも「従来のものの本にはあまり触れられていなかったような(柴田先生のエントリーより)」内容を意識してらっしゃることが感じられます。

 

第2編からが本番で続々と事例が登場します。

少数株主が株の売却に応じない場合どうキャッシュアウトさせるか、買収しようとしてるベンチャーのキーパーソンが買収後も働き続けてくれるか不安な場合の対応など、いかにもM&A法務的な事例はもちろん記載されています。

加えて

 

売主の株主が認知症っぽいんだけど...

総会も取締役会も開かれた形跡ないんだけど...

売主から「お前のとこの弁護士、細かいことばっかり何度もうるさいねん!DD終わらんやんけ!この話なかったことにすんぞ!」ってクレームが入ってるんだけど...

 

などなど、純粋なリーガルマターの枠にとどまらないリアルな事例もたくさん記載されています。リアルで生きた事例問題に触れる機会を提供してもらえるのはとてもありがたいですね。

 

感想・お気に入りポイント

まず読み物として普通に面白いです

(法務本の感想としてどうなのよ、みたいな話はまあ置いといて)

本書では37もの説例がありますが、ベンチャー法務をやったことがある人なら「ああ...うん...ああ...」みたいなリアクションをとってしまうやけにリアルなものだったり、あーその観点はなかったなと気付かされる内容になっています。

ちょっとだけ引用させていただくと(だいぶ省略してます)

 

設例24

B社は、対象会社T社の株式を経営株主S氏から取得することを検討している。B社は法務アドバイザーが作成した契約書案を売主であるS氏に送付した。同契約書案は、飼い主にとって極めて有利な条項となっていた。

数日後、S氏から「顧問であるK弁護士にも一応確認してもらったが、契約書案で特に問題ないのでこのまま押印の手続きを進めたい」旨の回答があった。なお、仲介事業者によれば、この顧問弁護士Kは高齢の弁護士であるが、M&A取引実務に関わったことはなさそうな様子である。

以上のような事実関係において、買主B社にとってどのような懸念が考えられるか。

 

 

こたえ:ヒャッハー!カモだー!

 

...って飛びついていいかどうかちゃんと検討しようね、普通の売買取引じゃなくM&Aという特殊性を考えないといけないよ、という話です。

柴田先生もエントリで「法務クラスタでネタになるようなものまで入ってます(笑)」とおっしゃってますが、設例自体が面白いですよね。自社に不利な高額の重要契約のレビューを高齢の顧問弁護士がザルチェックでスルー...ありそう怖い...とか。

 

リーガル面に話を戻しますと、M&Aの実務知識インプットや面白さだけでなく、通常の法務業務にも活かせる内容となっているのが凄く良いなと。

上記事例でいうと、企業間や事業者間の契約ですからいくら中小企業とはいえ相手が不利な条件を見落としてようが知ったこっちゃない、という考えも十分ありうるところです。

でもそれって普通の取引だから言える話であって、M&Aという類型や規模を考えた時どうだろう?目の前の餌に飛びついて後々大ヤケドするリスクがあるんじゃないのか?

そしてそれってM&Aに限らず、規模や金額の大きな契約で似たような事例に当たったら同じようにヤケドするリスクがあるのでは...と検討に至る気付きを与えてくれます。

 

また、内容面だけでなく記載の形式も私好みでして。全ての事例において、事例紹介→問題抽出・分析→解決策の提示という問題解決の基本フレームに乗っていますので大変分かりやすく、読み手にありがたい形式で解説されています。

(「問題解決」「フレーム」という単語をちりばめることでさりげなく私コンサルですアピールを挟んだつもりです)

単なる論点や知識の紹介で終わらず、法的に(時には現実目線)での解決策を納得いく形で説明されている書籍ってあまり見かけないですよね。ステキ。

 

実際に読まれた方も「読みやすいなあ」という感想を持たれることと思います。その読みやすさは上述のとおり、充実した内容が分かりやすい形式で書かれていることによるのかなと考える次第です。

 

こんな方にもおススメです

M&Aに携わる弁護士や法務でなくても、こんな方なら楽しく読めますよーというご提案です。

 

・法務担当ではないけれどM&Aに興味がある方
→条文や会社法の解説を読み込まなくても十分楽しめる内容になっています

・司法試験、予備試験受験生で会社法が苦手な方
→リアルな事例をベースに会社法の条文を使った問題解決・条文操作が学べます。イメージをつけながら条文操作を学べるというのはとっても貴重かと

M&Aには携わらない予定のベンチャー法務の方
→総会が開催されてない、労働者の時間管理が怪しい、従業員代表が選ばれていないなど、コンプラに目の行き届かないベンチャー法務の方はヒヤッとした経験があるはずです。「中小企業買収の」と本のタイトルにもあるとおり、本書ではベンチャーに起きがちな上記問題の解決策が記載されていますので、ダイレクトではないにせよ問題解決のヒントにできるものと思われます

 

というわけで、法務や弁護士の方に限らず楽しめる・役に立つ内容になっております。幅広い層の方が楽しめる内容ですので、気になっている方は是非どうぞ!

 

頼んだら直筆のサインももらえるとのことなので、今年のLT打ち上げでサイン会ですね!?

(雑なフリで締めてすいません)