リーガル・レバレッジ

リーガル・レバレッジ

コンサルに転身した元企業法務パーソンが、自分の市場価値を上げようと模索する日々を綴ります。

リーガルテックは伸びるという仮説を立ててみました 〜フィンテックの流行から見るリーガルテック〜

 

このエントリーはこんな内容です

・FinTechが急速に発展したのは3つの理由と背景があり

・同じことがLegalTechにも言える状況が整っていて

・LegalTech業界は一過性の流行りではなく、引き続き発展していくと思うよ

 

FinTechが発展した3つの理由

理由その① 人の利

まず、2008年のリーマンショックが挙げられます。世界的な規模の金融恐慌により金融機関が大規模な従業員整理を整理を行った結果、高度金融人材がフィンテック企業に流れることになりました。何より重要である「優秀な人」が集まったことは、フィンテックの発展を大いに加速させました。

また、ユーザー側の価値観変化も後押しになりました。小さいころからPCを使うことに慣れていて、サービス選定時には企業のブランドよりサービスの使い心地や条件を重視する、いわゆる「ミレニアル世代」と呼ばれる若者達がサービス利用者としての年代になりました。アメリカ政府がリーマンショックで危機に陥った金融機関に資金援助したことも「なぜ金融機関だけそんな特別扱いをするのか」という反感を生み、銀行と似たサービスがあるならスタートアップのサービスを使おうという風潮が生まれます。(すげーよくわかるその気持ち)

 

理由その② モノの利

AppleiPhoneを発売してから急速にスマホが普及しました。口座管理や家計簿作成一つとっても、昔の折り畳み式携帯で満足いくサービスは提供できなかったでしょう。好きなアプリをインストールし、タッチパネルで直感的に操作できるテクノロジー(モノ)と環境があってこそフィンテックは本領を発揮できているのです。

 

理由その③ カネの利

アクセンチュアのレポートを参照しますと、グローバル全体でのフィンテックへの投資額は2015年時点で223億ドルとのことです。軽く2兆円超え。今ならもっと行ってるとは思いますが、2015年時点でも十分すげーですね。伸び率も含め凄い勢いです。

もともと金融の市場規模自体が莫大であり、侵食するバッファがある領域ということもあります。マッキンゼーが2016年に発表した調査結果では、世界の金融機関の利益(税引き後)が2014年に合計1兆ドル(110兆円)を超えたとのことです。

 

110兆円の利益というと、なんとトヨタ50社分!

と言われてもすっとイメージは沸きませんが、とんでもない規模の市場でありお金を引っ張ってきやすい分野なのは確かですね。

 

※上記理由3点の根拠は下記2冊、その他FinTech本やらWEBの流し読み

 

フィンテック (日経文庫)

フィンテック (日経文庫)

 
決定版 FinTech

決定版 FinTech

 

 

環境が整うことの重要性

業界やプロダクトがブレイクし、単なるブレイクを超えて世間の常識を変えるほどの存在になるにはプロダクトの質だけでなく環境による後押しがとっても大事になります。

 

より身近なモバイルゲームで考えるとイメージ付きやすいかと思います。

コンソールゲーム会社によるゲーム文化の浸透、アニメ・漫画等コンテンツ産業の文化という人の利がありました。

日本特有の携帯キャリア決済システムのおかげで、携帯代とまとめてゲーム使用料を回収することができるという金の利もありました。スマホの登場により直感的ながら幅の広い操作が可能なゲームが生まれました。モンストとかパズドラとか。

また、アプリダウンロードによってゲームへのアクセスが容易になったというモノ(テクノロジー)の利も重なり大ヒットにつながりました。

どれが欠けても今ほどの一大産業にはなるのは難しかったでしょう。それと同じです。

 

じゃあリーガルテックが流行る背景って何かと考えるとものすごくフィンテックに通じるものがあるのでは、つまり人・モノ・カネの利があるのではと考えたのです。

 

リーガルテック発展を支える3要素

要素① 人の利

優秀な人材が揃ってますよね。なんてったってロースクール制度おかげです。

f:id:pnt_law22:20181111085435p:plain

弁護士数の推移がこちら(出所は弁護士白書)。細かい数字を見るまでもなく弁護士数が激増していることが分かるかと。制度のそのものが良いか・悪いか・悪いか・とても悪いか・なくすべきだみたいな議論は置いておきまして、法曹資格へのハードルを下げ弁護士人口増加に大きな影響を与えたのは明らかです。

 

弁護士人口増加に伴い、テクノロジーに強い弁護士だけでなく弁護士業務に従事せずテックに専念する方が増えました。司法試験を突破できる論理的思考と法的素養を備え、他業界他職種の経験があるビジネスセンスを持ち合わせた人材がリーガルテック業界に供給されました。

従来の法曹制度の下ではここまでリーガルテック業界が発展することもはなかったでしょう。

 

AIによる契約書作成サービスなんかが特にそうですが、リーガルテックの構想には法律知識はもちろん法律知識を業務に落とし込める人がマストです。技術だけ伸びてもシステムを構想できる人がいないと絶対に成立しません。人材超大事。

 

また、フィンテック編でお話ししたミレニアル世代がユーザとなったという点、リーガルテック編でもあてはまります。

電子で代用できるのに未だ紙ベースで運用する契約書、それらしき印影が記載されていればザルチェックされてしまう印鑑・はんこの押印習慣...。

正直なところ、特に合理性もなく惰性で続いているのではみたいな慣習や制度です。これらに取って代わるサービスが、実利が薄く形式的儀礼的な側面の強いものに対して嫌悪感を示すことの多い世代から強い後押しを受けるというの、そりゃそうだよなと思います。

 

要素② モノの利

リーガル系の業界に実利が薄い・儀礼的な要素が強いものが多いと言っても、染み付いた習慣というのは強力なものです。契約書にせよハンコにせよ、完全に廃止すると言うのは急進的すぎて受け入れられないでしょう。そこで、儀礼的な手続きや手間を排除し、かつ法的な正確性や信用性も確保したリーガルテックが躍動します。

電子契約といってもメールだけで取り交わすのは不安が残るところですが、クラウドサインでは電子署名技術を使い正確性を確保しています。

契約書を取り交わすのがめんどくさいとはいえ、自社にとんでもない不利な条件が入っていては困りものであるところ、AIによる契約書作成サービスは短時間で作成できる上にクオリティーを担保してくれるステキな存在です。

要らないものはなくすけれど、リーガル面や心理面で必要な要素はキープをモノ(テクノロジー)の発展が支えています。

 

要素③ カネの利

実際に調達が成功した例を見てもらうのが手っ取り早いですね。

 

GVA TECH

Holmes

 

弁護士ドットコムが時価総額100億円突破したのも記憶に新しいところ。上述した会社以外にもリーガルテックのスタートアップが資金調達しているニュースはよく聞きます。

 

また、金融業ほどの市場規模はありませんが、リーガル業界には参入障壁という強い味方がいます。

 

「契約書は紙でなくも大丈夫なんですよ」

「はんこはなくてもいいんですよ」

「契約書はAIが作ってくれるんですよ」

 

といった話、弁護士にされるか非弁護士にされるかでは受け手の安心感に天と地ほどの差があります。本エントリーで取り上げたリーガルテックサービスの提供会社さん、ことごとく代表者や経営者層に弁護士資格保有者がいるのはまさにそういうことかなと。非弁護士がリーガルテックを提供しても非弁に直結するわけではありませんが、ユーザー心理という観点で考えると参入障壁は大きいですね。

参入障壁の高さは利益率に大きく影響するので、カネに関しても利があると言えるでしょう。

 

まとめ

最後に一言でまとめますと

フィンテックが流行る土台となった人・モノ・金の利はリーガルテックにも当てはまる話で、リーガルテックは一過性の流行りではなく今後も拡大していく可能性が高いだとうな

というお話でした。

 

 

もちろんフィンテックとリーガルテックは別物ですし、土台が同じだからと言って必ずしもブレイクを約束するものではありません。

しかし!リーガルテック界隈の元気な感じ・減らしていくべき法務業務の多さ・今まで手付かずだったことを考えると、まだまだ開拓できる余地がある分野だと思います。

 

弁護士業務や法務業務から人がやる必要のない作業が消えて、集中すべき業務によりリソースが割けるような環境になってほしいですね。

そんな自分の願望込みでリーガルテックのこれからを予想してみました。